メンタル不調者の対応は難しいことが多々あり、メンタルケア方法で悩む人も多いと思います
一般的にメンタルケアにおいて最も重要とされるのはセルフケアとされています
しかし、私はラインケアも同程度に重要と考えています
メンタルケアの主要因としては、職場環境、仕事内容、人間関係によるものが多いように感じます
そのため、ラインによるケアにも注意を払うことが必要となります
また、健康経営の一環としてもラインケアによる対応は必要不可欠なものであると思います
ただし、部下自身のセルフケア能力がなければラインケアの効果が十分に発揮されません
4つのケアを円滑に行うことを意識することも大切になってきます
ラインケアを行うにあたってのポイントやどのような流れでフォローしていくかについて説明したいと思います
また、私が気を付けているポイントにも触れていきたいと思います
ラインケアとは
管理監督者(職場の上司や指揮命令する人)は、部下の状況を把握して職場環境の改善に取り組む必要があります
そのために、管理監督者が適切にケアが実施できるように、ラインケアについての教育研修を行うことが必要です
管理監督者は、部下である労働者の状況を日常的に把握しており、また個々の職場における具体的なストレス要因を把握し、その改善を図ることができる立場にあることから、職場環境等の把握と改善、労働者からの相談対応を行うことが必要である。このため、事業者は、管理監督者に対して、ラインによるケアに関する教育研修、情報提供を行うものとする。なお、業務を一時的なプロジェクト体制で実施する等、通常のラインによるケアが困難な業務形態にある場合には、実務において指揮命令系統の上位にいる者等によりケアが行われる体制を整えるなど、ラインによるケアと同等のケアが確実に実施されるようにするものとする。
引用文献;厚生労働省ホームページ
ラインケアのポイント
ラインケアには3つのポイントがあると考えます
- 部下の異変に気づく
- 部下の話を聴く
- 産業保健師や、医療機関へ繋げる
これらのポイントを把握した上で、管理監督者に伝えることが大切です
そして、管理監督者がラインケアについて適切に理解することで意味があるものになります
部下の異変に気づく
管理監督者に対して、勤怠面・仕事面・行動面などの変化に着目するように伝えています
勤怠面
突発休が急に増え始めた、遅刻が増えた、残業時間が増えたなどの変化があるか
仕事面
仕事の対応が遅れがちになる、アウトプットの期限が守れない、ミスや事故が増えた、効率が悪いなどの変化があるか
情緒面
怒りっぽくなった、ぼんやりしている、涙をよく流すなど感情がコントロールできていない、飲酒量増加などの変化があるか
このような変化に管理監督者が、気づくことが大切であると思います
部下の異変に気づくことにより、部下が抱えている不安や不満について話を聴くことも出来ません
部下の話を聴く
管理監督者に、話を聴く場所や話を聴く時間を設けることも大切であると伝えています
部下が話しやすい場所(周りに音が漏れない場所など)を確保することや、定期的に仕事や職場環境対する意見を聴ける時間を作るなど
部下が上司に悩みなどを、話しやすい職場環境を作ることが重要だと思います
このような場を設けておくことで、部下に心境の変化があるのか何か伝えたいことがあるのかを察することができることができると思います
しかし、管理監督者は忙しいことが多いため、面談に時間を割くことが難しいことや面談をしても結論を急いで話を簡潔に終わらそうとしてしまうことがあるかもしれません
私は部下の話を聴く時のポイントは聴く:7割、話す:3割を意識するようにと管理監督者に伝えております
急いでバタバタとしている状況で部下の話を聞いてしまうと
とりあえず話を聴いてますよって形だけは取りたいんだろうな…
どうせ聴いてもらえないし、時間の無駄
というように部下は感じてしまい、管理監督者に相談することをやめてしまいます
それではラインケアが機能しなくなるため、話を聴く時にもこのようなことを考えながらしてみてください伝えています
産業保健師や医療機関へ繋げる
部署内で解決する内容であれば産業保健師や医療機関へ繋げる必要はありませんが
部署内で解決するのが困難である場合は、遠慮なく産業保健師や医療機関へ繋げてくださいと伝えることが重要です
管理監督者が部下の話はしっかり聴いたが部署内で解決する問題か分からない場合でも繋げてもらうよう説明しています
日ごろから部下のことを気にかけ、話を聴くことは大事ではあるものの、部下の変化に気づかず状態が悪化している場合などは対応に困られる場合もあると思います
誤った判断で、部下の状態が悪化してしまうケースは避けるようにと私は伝えています
そのため、管理監督者が保健師に気軽に相談できるような関係作りも大切だと思います
ラインケアの例
中途採用者への対応
中途採用は即戦力と期待されて入社されることが多いため、悩みを抱える人もいます
企業側も即戦力として採用したのだからと、中途採用者へのフォローができていない企業もあります
中途採用時に保健師面談を実施
中途採用者の入社時に、保健師と面談する時間を人事担当者に設けてもらい、健康診断の流れやメンタルフォロー体制など保健師の役割を説明していました
面談することで、中途採用者に相談場所があることを知ってもらうことができます
また、自分の心身の健康のことを気にかけている存在がいるという、安心感を持ってもらえることも可能になります
中途採用者の多くは入社時に
会社でうまくやっていけるかな?
人間関係で苦労しないかな?
などたくさんの不安を抱えています
そのような不安を少しでも和らげる対策も必要であると考えます
中途採用時に保健師面談を実施した後は、本人の了承を得た場合のみ入社する部署の所属長にもフィードバックし、本人が心身ともに健康に働くことができるようなフォロー体制を作ることができました
半年後・1年後に保健師面談を実施
入社してから数ヶ月は、中途採用者の方も気が張っていることもあり熱心に仕事を取り組んでいます
また、早く仕事内容を覚えないといけないと焦っていることもあり、自分の疲れに気づけていない人もいました
しかし、半年後ぐらい経過し少しずつ仕事内容に慣れて来た時に、急に疲労感が増すように感じる人が多くみられました
そのタイミングで再度、保健師面談を実施する時間を人事担当者や所属長に依頼して、時間を設けてもらうことにしていました
保健師の面談の内容としては健康状態の確認や、睡眠時間、職場環境や残業時間などを対象者と面談して、心身の健康状態を確認していました
面談を実施した結果、
定期フォローが必要であると感じた場合⇒定期的なフォローを開始
定期フォローが不要であると感じた場合⇒1年後に再度面談を実施
このよう適宜対応していました
保健師を含めた同期会を実施
同時期に入社した中途採用者を集めて、年に1回同期会を人事労務担当者が実施しており、産業保健師さんも一緒に参加しませんか?と声かけを頂けてため実施することができました
同期会では中途採用者同士で、同じ役職や年齢の近い方を集めて実施し現在の悩みや、解決策、今後目標としていることなどをお互いに話し合うことで悩みを共感できたり、仲間がいるという安心感も持つことができます
産業保健師もこのような会に入れてもらうことで、中途採用者が面談時では見せないような悩みや表情を知ることができ、とても学びが多い時間でした
今回は、人事労務担当者や中途採用者の方からも「はりもぐさんも来てくださいよ!」と言葉を頂けたため参加することができましたが、この参加も良し悪しがあると私は感じています。理由としては、産業保健師が関わらなくて良い部分もあるのではないかと感じるからです。従業員の方の中には、産業保健師にはあまり知られたくない内容もあると思います
一定の距離感を保つことも私は必要だと感じました
適応障害者への対応
適応障害と診断された従業員からの相談も多いですが、適応障害の部下をもつ上司・同僚からの相談の方が多いです
適応障害とは?
適応障害は、ある特定の状況や出来事が、その人にとってとてもつらく耐えがたく感じられ、そのために気分や行動面に症状が現れるものです。たとえば憂うつな気分や不安感が強くなるため、涙もろくなったり、過剰に心配したり、神経が過敏になったりします。また、無断欠席や無謀な運転、喧嘩、物を壊すなどの行動面の症状がみられることもあります。
ストレスとなる状況や出来事がはっきりしているので、その原因から離れると、症状は次第に改善します。でもストレス因から離れられない、取り除けない状況では、症状が慢性化することもあります。そういった場合は、カウンセリングを通して、ストレスフルな状況に適応する力をつけることも、有効な治療法です。
引用文献 厚生労働省 みんなのメンタルヘルス
相談内容としては
適応障害と言われても、ただの我儘に思える。周りの人も、あまりいい気分はしない。どうすればいいか?
現在の業務内容が嫌で言っているのではないか?
業務内容を変えた途端に元気になりましたよ。
本当に病気なんですかね?
などの相談を受けます
これらの相談を受けた場合、まず適応障害について説明して、メンタル不調者への対応方法や職場での対応方法を伝えています
適応障害と診断された本人から相談があった場合は、どのような状況の時に症状があるのかをしっかり聴き、必要に応じて産業医面談を実施します
適応障害と診断された従業員への対応方法
適応障害を発症した原因を、取り除くことが大切です
職場の人間関係が原因の場合や業務内容が原因な場合もあり、様々な原因があります
業務内容の変更や業務量の軽減、部署異動で症状が改善する場合もあれば、職場改善をしても状態が安定しないため、しばらく休養を必要とする場合もあります
人事部、所属長、産業保健師、産業医、本人で話し合いをして本人の状態に合わせて、対応方法を決めていきます
職場改善後も定期フォロー
職場改善をした後も、適応障害と診断された従業員の状態を把握し症状が悪化していないかを確認する必要があります
また、本人の職場の上司ともコミュニケーションを図り、本人の普段の仕事状況や勤務態度、本人に対してどのようなフォロー体制をとっているかを確認や、ラインケア体制がしっかり整っているのかを把握します
本人に対しても、今後症状が再発しないように自分の心身の異変に気づけるようにセルフケアを指導します
認知行動療法やアサーションなどの手法を本人に説明しています
ラインケアも大事ですが、セルフケア能力が本人にある程度なければラインケアだけ補えない場面があります
さいごに
企業側として健康経営を目指すために、管理監督者に対してラインケアの教育研修はとても重要です
部下の異変に気づき、部下の話を聴く環境を整えることによりラインケアの体制が整うと考えます
しかし、部下のセルフケア能力がない場合に、ラインケアを実施したところで効果が出ないことがあります
その時はアプローチを変える必要があります
何が原因かを見極めてメンタルケアに取り組んでいくことが大切です
今後も従業員の健康保持増進のために、産業保健師は何が出来るかを勉強していきたいと思います